2017年5月29日月曜日

「大嫌い!」「死んできて」

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家に時々倫太郎君が遊びに来るようになりました。
しかし、ゲームに負けると
「今のわざとやねん。わざと負けったってん。」と言うのは
むしろカワイイのですが、息子が負けると
「くやしい?くやしいやろ?なぁ、くやしい?」と
繰り返し聞き、「いや、別に?」と答えると
「なんやねんそれ、悔しいって言えや。」と言い、
ついには息子が悔しいというまで、合計11回言っていました。
あまりのくどさに、私も口をはさみ
「負けたって悔しくはないと思うよ。楽しくしたらいいやん。」
といいました。

週に一度、息子はサッカーを習い始めました。
サッカー教室となる公園は家のベランダからよく見えます。
倫太郎君は、サッカーの天才児で、
もっと小さいときから習っているそうです。
亮とは、レベルが違うので、一緒には習っていませんでした。
しかし、毎週水曜日、息子がサッカーを習っているのを
よく見に行っていて、あとから「アドバイス」をいろいろしてくれていたのです。
息子は、もちろん、アドバイスとは受け取っておらず
「ケチをつけられる」と言うのですが
私が「倫太郎君はとてもサッカーが上手だから、親切で言ってるんだよ。」と
息子に刷り込んでいたのです。
やがて、倫太郎君は幼稚園で仲良くしている、永君という男の子と二人で、いっしょに亮のサッカーを見守るようになりました。たいてい、そのまま、公園でサッカー教室のあと、三人で遊ぶという段取りです。
ところが、あるひ、ベランダから見下ろすと、リョウが泣きながら自分のサッカーボールをもって家に向かって歩いているのがわかりました。
その後ろを、100均でよくある、プロペラのおもちゃを手にもって、倫太郎君と永君が、何か叫びながら歩いています。

一人で帰ってきた亮に事情を聞きました。
この話はあとで、永君の母親、倫太郎君の母親たる角田恵美さんをふくめた母親の皆さん立ち合いのもと本人たちにこのようであったと確認をとりました。
幼稚園の先生からもこのようであったと確認されています。
それをそのまま、書きます。

プロペラのおもちゃを永君が持ってきていたので、亮はそれで遊びたかったのです。
亮がサッカーをしている傍らで、倫太郎君と永君はそのプロペラで遊んでいたのですが、終わったら貸してもらって、自分もしたいと亮は思ったのだそうです。
サッカーのレッスンのあと、貸してと言ったのですが、
永君と倫太郎君はサッカーがしたい、と言い出しました。
亮はつい今まで、一時間、たいして好きでもないサッカー(サッカー教室ですから当たり前ですが)をしていたので、「僕はサッカーそんなに好きじゃないんだ」と言うと、「じゃあなんでサッカーボール持ってるねん。」と永君が言い、息子のサッカーボールを取り上げ、車道の方へ投げて「取りに行って車にひかれて死んで」と言いました。
ボールは車道には至らず、近くにポトリと落ちました。
「やめて!」と息子が叫んで取りに行こうとすると、倫太郎君と永君が二人で亮の肩を押し、息子は倫太郎君の脚を蹴りました。
とにかく、亮は怒り心頭に発する中、泣きながらボールを拾い帰ってきました。

この話を聞いている途中で、(私も心中穏やかではありません)
角田さんがうちに来ました。
ドアを開けると「ごめんね~」と言いながら
顔が満面笑顔の角田恵美さんがいます。
私はその場で、そのにやけた顔をパンチしたい衝動に駆られましたが、冷静にドアをあけると、恵美さんの方から「なんかさぁ、倫太郎が亮君とケンカになったって言うねんけど、さっぱり言ってることがわからなくて、亮君に脚蹴られたって言うねん」・・・
つまり、うちに文句を言いに来たのです。
それならば、この真摯とは言い難い態度もわかります。
私は息子から聞いた話を伝え、倫太郎君の目の前で、息子を叱りました。
どんな理由があったにせよ、仕返しはいけないと・・・。
「なんや、そうやったんや~ごめんね、亮君・・・。」恵美さんは言いました。

私は週に一回、家から一時間ほど離れたところに、出向して
仕事をしています。

その曜日は、母が泊りがけで息子の面倒を見ます。
このサッカーボール事件の翌日も、その曜日に当たりました。
夜遅く、家に帰ると、母が怒っていました。
幼稚園の預かり保育に母が迎えに行って、帰ろうとすると、家の前の公園で、倫太郎君と永君が遊んでいたそうです、息子が、母に手を引かれながら「倫太郎君、永君!あとでいっしょにあそぼーーー!」と叫ぶと、永君が大声で「亮大嫌いだから、絶対に遊ばない!」と叫び、倫太郎君がその横で笑っていたそうです。
母が、自分の手の中にある亮の小さな手が震えたのを感じ、不憫に思い、息子に「放っておきなさい。遊ばなくていい。」と言ったそうです。
倫太郎君ってどこの、どういう人なの?と、母は今にも怒鳴り込まんほどの勢いでした。
私も、もう黙ってはいられず、永君のお母様のコンタクトをもっていなかったので、幼稚園に手紙を書きました。もちろん、過日のサッカーボールの事件の詳細も書きました。そして、恵美さんにメールをしました。
「昨日のこともあるし、きっとうちの亮が、そんなことを言われるような何かをしたんだと思います。しっかり教えたいので、亮がいったい何をしたのか、倫太郎君に聞いてもらえる?」・・・と
永君の母親が翌日電話してきました。「え?永君がですか?そんなこと言ったんですか?」と自分の息子のことを「君」付けで呼び続け、会話が進みました。「謝りに行きたいんで、家どこですか?」このセリフは一音一句たがわず、電話で述べられました。
その電話を置いたとき、ちょうど幼稚園から、連絡が来ました。
「実は、幼稚園も気になっていたんです。気づいたのは、この一週間ほどのことなんですが、亮君が近づくと、永君と倫太郎君が周りのお友達に『亮が来たで、無視しろ。無視せんかったら友達やめるぞ』といったり、亮君だけ意図的に鬼ごっこに入れなかったりするので注意したんです。それで、お母さまからうかがった、サッカーボールのことも、そんなことあったの?亮君を二人で肩押して倒したりしたの?って聞いたら、その通りだと認めました。」と幼稚園教諭も言いました。
永君の母親が謝りに来た時、角田恵美さんも同席しました。
そこで過日の「サッカーボールとってきて死んで」事件も話をしました。
どうして、亮を「大嫌い」と言ったり、ボールを取り上げたり、死んでと言ったりするんだ?亮が何かしたのか?と尋ねました。すると永君は「うんち、って言ったから」と言いました。その横で亮が「言ってない」と言いました。永君はうつむいて、私から目をそらしました。
嘘です。でも私は亮を黙らせ、永君に言いました
「亮は永君や倫太郎君に、『ウンチ』って言ったの?」
二人は同時に首を振りました。
「じゃあ、そのために亮を二人で押したり、『大嫌い』って言うのはおかしくない?」
二人はうなずきました。
「嫌いって言うのは仕方ない。でも、みんなまだ年長さんで、小さいから、嫌いと決める前に、好きなところを探してもらえないかな?それで、みんなが3年生とか4年生になったとき、それでも『嫌い』と思ったら、もうお友達してくれなくていい。遠くに離れててくれたらいいから。」と私は言いました。
そして・・・
「亮はおばちゃんにとって、命よりも大切な子供やねん。その子に死んで来いなんて、言うのは許さない。この子が死んだら、おばちゃんも死ぬし、命を懸けて守る。貴方達のお母さんも、貴方達のことを同じように思ってらっしゃるのよ。」と言いました。
その横で、永君のお母さんは涙を流しはじめ
倫太郎君のお母さんは、「亮君偉いな。そんなしっかりいろいろ報告できるんやね。」

・・・・
正直
馬鹿か?お前は????
と思いました。
この言葉の裏には、私がすべてを決めつけていると思っているという本音が潜んでいます。今目の前で、子供たちも認め、幼稚園でも認めているのに、まだ、そうやって逃げおうそうとしているのです。

こういう親がいるから、イジメはなくならないのです。
自分たちの子供をいったい、どんな「淵」に追いやっているのか
信じてやる矛先を間違っていることにも気づかず
子供の無邪気な過ちを、つついている私にこそ
「悪気」があると批難しているのです。

子供たちの二三の言葉から、真実を見抜いてやる理性と知性こそ
親に必要な素養です。

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